インタビュー

国内法律事務所から
外資系法律事務所へ

― 弁護士としての経歴を教えてください。

インタビュー風景

社会人として最初に働いた会社が金融機関であったこともあり、金融取引に関わる仕事をしたいという思いがありました。ですので、当時、金融取引に対するアドバイスに定評があった三井安田法律事務所に入所しました。

― 具体的にはどのような仕事をしていたんですか?

三井安田法律事務所では、証券化取引や資産流動化取引など当時先端的であった金融取引に多く関わりました。ビジネス的には先端的な取引ではありましたが、弁護士として求められたのは担保や債権譲渡などの民法の基本的な知識を積み上げて考える力であり、法的論点のリサーチや法解釈をする力が鍛えられました。また、大量のドキュメンテーションを扱う仕事でしたので、契約書を作成したり、レビューして問題点を指摘したりする力の基礎もここで身に着けることができました。

勤務中、メガバンクのロンドン証券現地法人に出向する機会に恵まれたのも良い思い出です。

― その後、外資系法律事務所に移籍したんですね。

ロンドンに出向している間、当時のボスがリンクレーターズという外資系の法律事務所に移籍したため、私も帰国後にリンクレーターズに所属することになりました。

リンクレーターズは、世界中のオフィスに2000名を超える弁護士を擁する法律事務所です。東京オフィスの外国法の弁護士資格を有する同僚と共に日本法の観点からではなく外国法の観点からもアドバイスをしたり、ロンドンやパリなどの海外のオフィスのお客さんに対して現地オフィスの弁護士と共同してアドバイスをしたりするなど、刺激的な経験を積むことができました。

業務としては、日本企業による国内外での資本市場における資金調達、海外政府・企業による国内における債券(サムライ債)の発行などに多く関わりました。

証券発行以外では、企業再編を含め、会社法に関する様々なアドバイスも行っていました。週に半日だけ、証券会社に常駐してそこに持ち込まれる様々な法律相談に乗っていた時期もありましたので、企業法務関係でカバーした範囲は広範だったと思います。実は、東京のお客さんが県内の企業を買収する際のアドバイザーを務めたこともあり、その際のデューディリジェンスのために県内を訪れたこともあります。

― 特に難しさを感じた点はありますか?

資本市場は、投資家の自己責任が問われる場ですが、その前提として発行体の事業・財務などの適切な情報開示が求められます。投資家が自己責任で投資判断するためにどういう情報を開示しなければならないかということは、法律に書き尽くされていることでもなく、常識力を試されるようなところがあるんです。

また、資本市場の案件の多くは公表され世間の目に晒されます。案件に関わる弁護士としてはプレッシャーを感じるところであり、同時に、案件そのものや案件に付随して検討しなければならない論点については、適法かどうかに留まらず、妥当性についても考えなければなりません。

― 単純に、法律の条文に照らしてアドバイスするだけでは足りないということでしょうか?

はい。そこが難しいところだと思います。しかし、この時代に身に着けた常識力のようなものや、適法性だけでなく妥当性も考える癖は、どのような分野の仕事をするにあたっても役に立つのではないかと思っています。

社内弁護士を経て得た
“力”と“顧客目線”

― 社内弁護士というポジションは東京などの大都市圏では急激に増えてきていますが、それ以外の地域ではではそれほど多くありません。
― 社内弁護士の役割と一般の弁護士の役割の違いについて教えてください。

例えば、ある契約条項の適否を検討する場合、法律事務所の弁護士の仕事は「この契約条項には、〇〇という問題(リスク)があります」という問題点の提示をすることで基本的に終わりなのですが、顧客サイドである社内弁護士の仕事はここからです。

外部弁護士のアドバイスを踏まえて、会社としての意思決定が正しくなされるよう自身で判断をし、その上で経営陣に助言しなければなりません。これは実際のところ、結構しんどい仕事です。とりわけ、収益目標を背負って事業を推進しているビジネス部門に対してストップをかけなければならない場合は、「何となく危ないから」程度の説明では社内の説得は不可能です。より明快な説明をすることが求められます。

社内弁護士になるまでは、自身のアドバイスが顧客サイドで活用される際の具体的な場面までは深く考えていなかった、というのが正直なところです。だからこそ、良い経験を積めたと思います。

インタビュー風景

― 社内弁護士としてリーガルサービスを受ける中で、他に気づいた点はありますか?

顧客が助言を求めていることと弁護士のアドバイスが、必ずしもかみ合っていないことが多いという印象を受けました。

例えば、弁護士が「〇〇という事実を前提にすると、この取引は適法である」というアドバイスをすることはよくあるのですが、弁護士は、顧客が当該ビジネスを具体的にどのように行っているかについては必ずしも詳しくありません。そのため、〇〇という前提事実が不正確なことが結構あるわけです。前提事実が崩れれば、「この取引は適法である」という法的助言には価値がありません。

経験を積んだ法務部員がいれば、外部弁護士が前提事実を正しく理解するようコミュニケーションを取ることができますが、全ての会社に法務部があるわけではありません。そのため弁護士が前提事実を正確に理解せずにアドバイスをしているケース、その結果アドバイスに価値がないにも拘らず、クライアントがアドバイスを受けた気になっているケースは、意外に多くあるのではないかと思います。こういったことは、社内弁護士として弁護士のアドバイスを精査した経験がないと、なかなか気づけない点ではないかと思います。

石川県で開業した今、
力を入れたい分野

― 特に力を入れたい取扱分野はありますか?

インタビュー風景

その時々で、この地域の課題となっている事柄には対応できるようにしていきたいです。例えば、事業承継の分野などは中小企業の多い石川県では重要なテーマである一方、適切な段階で弁護士に相談する経営者は多くはないと言われています。多くの黒字企業が廃業している中、こうした分野に力を入れることで、取引関係や雇用も維持でき、結果として地域経済にも貢献できるのではないかと考えています。

― 海外と関わる案件については?

はい。県内企業の中でも海外売上比率が50%を超える大企業はいくつもありますし、中小企業でも海外と取引している会社は200社以上あるというデータがあります。こういった海外展開をしている企業やこれからしようとしている企業に対して、これまでの経験を活かして何らかのお手伝いができればと考えています。

― 企業法務以外の分野についてはどう考えていますか?

離婚、相続、交通事故といった一般民事事件にも力を入れたいと思います。この種のトラブルに巻き込まれることは誰にも起き得ることです。しかし、トラブルを抱えながらこれまで通りの生活を送ることは本当に大変なことです。私自身同じような経験がありますので、よくわかります。トラブルの解決を専門家に任せることは、これまでの通りの生活の質や仕事のパフォーマンスを維持する上でも重要だと思います。

強調したいのは、困ったときは一人で抱え込まず、周囲に助けを求めて欲しいということです。友人、親戚、職場の同僚、行政機関など、助けてくれる人はたくさんいるはずです。弁護士もその選択肢の一つです。信頼できる相談相手として、気軽に相談いただける存在を目指したいです。

― 最後に、業務以外でも力を入れたい活動があれば教えてください。

前職では忙しさにかまけて、学校のPTAの活動などはほとんど貢献できていませんでしたので、こういった社会活動に積極的に参加したいです。また、弁護士としてのプロボノ(無償奉仕活動)にも力を入れたいと思い、弁護士会の法教育委員会など複数の委員会に入れていただきました。こうした活動を通じて、社会との接点を多く持ちたいと考えています。

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